製造業の工場現場では、機械の操作ミスや作業中の不注意による事故などの危険リスクがあります。
座学による安全教育を実施するも、従業員の安全意識を向上させるのには課題を感じる安全責任者も多いのではないでしょうか。
VR安全教育は工場で起こり得る事故や労働災害を疑似体験でき、危険への意識を高める手法として注目を集めています。
この記事では、製造業におけるVR安全教育の重要性を解説し、VRが役立つ4つのケースと注意点、実際の企業の導入事例を紹介します。
目次
1.VR安全教育の有効性
2.製造工場でVR安全教育が役立つ4つのケース
ケース1|工場で起こる事故や労働災害への対処
ケース2|複雑な機械操作のトレーニング
ケース3|各地に分散する工場で均一な教育を実施
ケース4|安全教育実施により発生する各種コストの削減
3.製造業におけるVR安全教育導入時の注意点
(1)初期投資がかかる
(2)実際の機械との違いがある
(3)工場設備に合わせてコンテンツも更新が必要
4.製造業のVR安全教育活用例
● 化学メーカー|三井化学株式会社
● 金属部品製造|アサダメッシュ株式会社
5.まとめ
1.VR安全教育の有効性
VR安全教育では、現実世界に近い臨場感で事故や労働災害を疑似体験でき、どのような状況が危険かを直感的に理解できます。
従来の安全教育は、教科書を用いた講義や動画視聴などが主流でした。これらの方法では、頭では理解しても実際に事故や労働災害に遭遇した際に迅速に行動できず、研修内容が生かされないという課題を抱えていました。
VR安全教育を行えば、工場で起こり得る事故や過去事例を疑似体験して危険への意識を高めることで、対処方法を具体的に考える機会をもたらし、これまで抱えていた課題も解消できます。
VRを用いた安全教育は、安全対策をより実効性のあるものにする有効な手段と言えます。
2.製造工場でVR安全教育が役立つ4つのケース
VR安全教育は製造業の現場に大きなメリットをもたらします。ここでは製造工場においてVR安全教育が役立つ4つのケースを紹介します。
ケース1|工場で起こる事故や労働災害への対処
VRを活用することで、工場で実際に起こり得る事故や労働災害への危険意識が向上し、具体的な対処法を検討しやすくなります。
● 機械の操作ミスで起こる巻き込まれ事故
● 溶接作業中の不注意で起こる火災
● 化学物質取り扱いの手順不履行による事故
映像資料や教科書を用いた座学など、従来の安全教育の手法では、事故や労働災害に対する実感が持てず、従業員の危険意識が向上しないという課題がありました。
VRでは事例をもとに事故や労働災害の再現が可能です。何が危険かを身をもって体感できると共に、危険意識の向上につながるでしょう。また事故の適切な対処法をシミュレーションすることで、実際発生した際に慌てることなく迅速な判断や対応が期待できます。
危険を疑似体験するのはもちろん、事故が起こる前段階の教育にも有効です。例えば、事故が起こりそうな場面を再現し、作業前・作業中にチェックするべきポイント、指差し確認を行うべき箇所などを学習するのに効果的で、安全対策の仕方を確認し、危険防止への意識を高めるために活用できます。
ケース2|複雑な機械操作のトレーニング
高度なスキルが求められる機械操作も、VRを活用すれば実際と近い状況でトレーニングを行えます。
● フォークリフトの運転操作
● 製造ラインの稼働手順の確認・反復練習
機械のボタンを押す操作確認、作業に必要な操作バーを掴む感覚の習得、クイズ形式のコンテンツを使った正しい作業手順の学習など、実際の現場で効果的なトレーニングが可能です。
実機での操作練習の場合、工場の稼働時間や指導者のスケジュールを考慮しなければならず、時間や回数に限りがあります。また万が一操作を誤った場合、重大な事故やトラブルを招きかねず、初心者や若手のトレーニングには慎重にならざるを得ません。
VRは使用回数に制限がなく、工場の稼動タイミングを考える必要もないため、反復トレーニングが可能です。作業現場や機械の操作環境をリアルに再現でき、実際の状況をイメージしながら練習できます。また、機械の操作を失敗しても影響がない点もメリットと言えるでしょう。繰り返しの練習によって、現場での失敗を減らす効果が期待できます。
ケース3|各地に分散する工場で均一な教育を実施
VR安全教育は勤務地や稼働時間に縛られず、各工場で同質の研修を行うことが容易です。
工場が全国に点在していることや、工場の稼動によって従業員の勤務時間が異なることなどにより教育のタイミングが変わり、学習内容や質に差が出る場合が考えられます。
VRを活用すれば従業員全員が同一の内容を学習することになり、教育の均一化が図れます。また、熟練者と同じレベルの研修を受けることができ、新入社員や若手社員の早期戦力化も期待できるでしょう。
ケース4|安全教育実施により発生する各種コストの削減
VR安全教育は、必要な機器を準備することで時間や場所を問わず、繰り返し実施できるため、さまざまなコストカットが期待できます。
● 研修のために講師や受講者が会場へ移動するコスト
● 参加者全員を収容できる会場の手配や、研修資料を準備するコスト
● 機械操作などのトレーニングを行うために設備を稼働させるコスト
座学での研修は研修受講者を1カ所に集めなければならず、また研修を実施するたびに教育担当者のスケジュールを確保する必要があります。従業員が各工場に分散していることが多い製造業において、研修の準備にかかるコストは大きいでしょう。
VR安全教育は、遠隔地からの研修が可能です。そのため受講者を1カ所に集める必要がなく、従業員の移動や会場の手配にかけるコストをカットすることができます。また一度コンテンツを準備すれば、何度も使用できるので、研修を行う度に資料を準備する手間も省けるでしょう。
VRは導入自体にコストがかかるという注意点がありますが、肉体的コストや時間的コストの縮小を考えると、導入メリットは大きい場合もあります。
3.製造業におけるVR安全教育導入時の注意点
大きなメリットをもたらすVR安全教育ですが、導入の際は注意点も頭に入れて計画を立てることが大切です。ここではVRを効果的に活用するために押さえるべき3つの注意点を解説します。
(1)初期投資がかかる
VRを導入するためには、PCやVRゴーグルなどの視聴デバイスの選定や、コンテンツ制作など、初期コストが必ずかかることを考慮しなければいけません。
中でもコンテンツは、大きく分けて「オーダーメイド」と「パッケージ」の2パターンがあり、どちらを選ぶかで初期費用も変わります。
導入方法の違いを理解し、コストパフォーマンスと教育内容の具体化を検討した上で、初期投資を加味した導入計画を立てましょう。
導入方法の違いについては、「建設業のVR安全教育とは?メリットや活用例を解説」で詳しく説明しています。
(2)実際の機械との違いがある
機械操作の反復トレーニングができるVR安全教育ですが、VR映像でのトレーニングと、実際の機械操作では感覚に差があることを忘れてはいけません。
そのような違いを理解せずに実践に移行すると、VR映像では感じられない物理的な重量感や振動、室温や騒音など予期せぬ環境の変化などに驚き、操作を誤るといった危険リスクの発生が考えられます。
適切な操作手順や異常時の対処方法はVR安全教育で学習し、機械の質感や操作スピードなどの繊細な部分は、現場研修で実際の機械に触れて習得することが重要です。
2つの研修を併用することで、操作トレーニングの効果はより高まるでしょう。
(3)工場設備に合わせてコンテンツも更新が必要
工場設備の入れ替えや製造工程の見直しなどに応じて、VRコンテンツも更新する必要があります。
工場内での事故や労働災害の疑似体験や、トレーニングに活用できるVR安全教育ですが、教育内容は実際の仕事を反映したものでなければ意味がありません。古いコンテンツを使って教育を行うと、作業内容とのギャップが生じたり、教育の効果が薄まることも考えられます。
オーダーメイドのコンテンツの場合は、コンテンツの更新作業も請け負う制作会社を選び、パッケージコンテンツの場合は、業務内容を広く網羅したものを選択するなど、コンテンツ選定時に将来的な運用イメージを持つことをおすすめします。
4.製造業のVR安全教育活用例
製造業において、VR安全教育を導入した2つのケースをご紹介します。他社の事例を参考にして、自社ではどのような活用が考えられるか、具体的なイメージを持ちましょう。
化学メーカー|三井化学株式会社
三井化学株式会社では、VRを活用して製造現場で起こり得る事故や労働災害を再現し、安全教育に取り入れています。また全国各地に点在する工場での遠隔研修にも活用しています。
工場で起こり得る事故・労働災害を再現
● ベルトコンベア挟まれ、ローラー巻き込まれ、電源盤感電、フォークリフト前進・後退などをVR映像で再現出前研修
● 遠隔地工場および海外拠点の従業員を対象に、VRを活用した研修を実施VR活用は、通常では再現できない事故を仮想空間で体験でき、従業員の危険感受性を高める効果があります。また遠隔研修の実施を可能とし、研修場所や時間の制約を受けない研修の開催や、本社の従業員が各工場に出向く手間の削減につながったと言います。
*出典:三井化学株式会社|安全・保安
金属部品製造|アサダメッシュ株式会社
アサダメッシュ株式会社は、製造現場の臨場感をVRで再現し、従業員のスキル向上に活用しました。
製造技術の習得と向上に活用
● ベルトコンベア挟まれ、ローラー巻き込まれ、電源盤感電、フォークリフト前進・後退などをVR映像で再現出前研修
● 製造工程の確認と反復練習を行い、早期戦力化を図ると共に、従業員の安全意識と品質の向上を目指す技術の伝承に時間がかかるという課題を抱えていましたが、VRの導入により作業工程のポイントやテクニックをより具体的に伝えることが可能となり、若手職人のスキル習得の期間が短縮できたと言います。
*出典:アサダメッシュ株式会社|鹿児島県中小企業DX支援プラットフォーム事業サイト
5.まとめ
VR安全教育は、工場内で発生し得る事故や労働災害の疑似体験や、機械操作の反復トレーニングができ、従業員の安全意識を高める効果的な手法です。
再現が難しい事故や労働災害を体験することで安全対策の重要性を認識し、防止に向けた行動や迅速な対処へと直結するでしょう。
従業員の安全管理への意識を向上させ、事故や労働災害のリスクを減らす手法としてVR安全教育の導入をおすすめします。
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2023/11/1|VR安全教育